今年度は、昨年度にインタビューを行った薬物使用者のほぼ全員に対して、継時的変化を確認するために再びインタビューを行った。さらに新たに合計5人の薬物使用者に対してインタビューを行った。これらを踏まえ、分析的帰納法を用いて昨年度に提出した「コントロール使用」にかかわる要素についての仮説を検証・洗練した。昨年度の仮説に加えて特筆すべき事柄は、使用者集団において独自に発達した「知識と解釈」を通した社会制御(social control)である。この場合社会制御とは、法や慣習を含め生活全般を制御する合法性・経済性・身体性など社会的起源をもつ制御である。使用継続段階での「コントロール」について、以下に新たな要点を挙げておく。 1 意識的なコントロール 法ならびに健康との関係において、使用者は使用者集団を通じて、薬物と自分との関係を定義する独特の知識を発達させる。(世俗的な知識)。その知識を通じて状況を解釈することにより、常に新しい体験である薬物使用継続経験をコントロールしていく。さらに既存の医学的知識(専門的な知識)を参照して状況を解釈することによってコントロールを行う。 2 意識化されないコントロール 意識的なコントールに用いられる知識およびその語彙が、薬物が原因であるかどうか不明の状況(たとえば、離婚などの外的な危機的状況・体調不良などの内的な危機的状況)を解釈する際に導入され、コントロールを促している。
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