本年度は、第2次大戦後のドイツと日本の動向に焦点をあてて、研究をおこなった。両国の戦後は、まず出発点での制度的前提が大きく異なっていた。ビスマルクの施策によって19世紀後半に医療保険等の社会保険制度を確立し、さらにこれをワイマール期に充実させた、つまり第二次大戦前に福祉国家の枠組みをほぼ完成させていたドイツとは異なり、日本が福祉国家の体制を整え始めるのは大戦中のことである。厚生省の設立、また健康保険加入率が7割にまで達すること、これらは日本の場合いずれも戦時下でなされ、戦後も、この流れをさらにナショナル・ミニマム(日本国憲法第25条)を梃子に発展させることが第一の課題となった。他方、医師会の動向の点でも、両国は大きな違いを見せた。戦後の(西)ドイツでは、ナチスの「強制的同質化(Gleichschaltung)」に対する反省から、医師会にある程度の強い自治権が与えられたのに対し、日本では、GHQの方針も大きく作用して、医師会は任意加入のものにとどまり、その自治権、また医療政策におけるリーダーシップも(西)ドイツのそれに比して弱く、むしろ国(厚生省)が、様々な局面で強力なリーダーシップをとってきたと見てよい。この違いは、昨今の医療倫理(生命倫理)の諸問題に対する対処の仕方においても確認できるが、日本の今後の課題は、医療プロフェションの自立性とリーダーシップを何らかの形で強化していくことにあるだろう。この点については今後も研究・考察を深めていきたい。
|