本研究では、日本において最も過疎化・高齢化が進んだ地域の一つである中国山地の中山間地域、島根県美濃郡匹見町・美都町において、両町の社会福祉協議会に委託して行った、高齢者とその家族の生活実態と社会的ネットワークについての調査データをとりまとめた。データは、約350ケース、約500変数に及んだ。入力作業は、社会学を専攻する学生アルバイト5名に委託し、昨年12月に終了した。これまでデータ分析の過程で明らかになったことをいくつか示すと、まず、典型的な中山間地である匹見町・美都町の高齢者の生きがい感は驚くほど強く、また親族、友人・知人との社会的ネットワークも豊富で、一般に抱かれている山村の高齢者に対するイメージは本調査の知見にはあてはまらない。本調査では、都市部の高齢者のそれとは異なった、中山間地特有の高齢者文化(生きがいと人的ネットワークのシステム)を発見できた。とはいえ、過疎化に伴い、高齢者の生活は、パーソナルな絆のみでは維持できなくなっており、行政サービスによる扶助が不可欠になっているなか、そうした高齢者文化が、一面で公的な扶助を受容する障壁となっている問題も浮かび上がった。行政サービスガ、従来のパーソナル・アシスタンスと機能的に等価なものとして受容されるよう、老人福祉計画段階で、山村特有の地域文化を正確に把握しておく、という政策的課題も明白になった。なお、現在、本調査で得られた知見を、論文2本、報告書1冊にとりまとめる作業を行っている。
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