本研究の目的は、オーストラリアにおける初等・中等教育段階におけるカリキュラムに、社会の文化的多様性がどのように反映されているのか、また、そこではどのような価値、資質・能力を子どもたちが共通に身につけるべきことが意図されているのか、明らかにすることにある。本年度は、オーストラリア国内で最も新しい西オーストラリア州のカリキュラム・フレームワークの分析を行った。その結果、この新しいフレームワークの特徴は、同州のすべての生徒が知るべきこと、理解すべきこと、尊重すべきこと、および、すべての生徒が、幼稚園から12年生までの全学校段階でプログラムを与えられた結果としてできるようになるべきこと、すなわち達しすべき学習成果を、明確に示している点にあることが明らかになった。また、このフレームワークでは、生徒の経験を中心に据え、中核的な共有される価値に基づく、すべての生徒の多様な背景を包み込む、社会のニーズにも生徒のニーズにも応じる柔軟性をもったカリキュラムが構想されており、事象の関係性を重視した総合的な学習と学校・家庭・地域社会の連携によって、学習成果を達成することが意図することが意図されていることが明らかとなった。こうしたカリキュラムの構成原理は、各学校の実状に応じた特色あるカリキュラムの開発を保証するものであり、この点においてまさに地域社会の文化的多様性を反映することが可能となっている。さらに、共通に身につけるべき価値、資質・能力としては、知識の追求と可能性の達成への努力、自己受容と自己尊重、他者と他者の権利への尊重と関心、社会的および市民的責任、環境への責任といったことが意図されていることが明らかとなった。今年度の研究成果に基づき、来年度は、他の州のカリキュラム・フレームワークの分析を行う予定である。また、理論研究によって分析枠組みをより精緻なものとしたい。
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