言い直し、言い誤り、単語間非流暢など、非流暢が連続して生起する現象をクラスタリングとして捉えると、幼児期の吃音児の発話には、このクラスタリングが多く生起することが報告されている。そこで、本研究では、このクラスタリングの現象が成人吃音者の発話においても観察できるかどうかについて検討を行った。 被験者は2名の成人吃音者であった。それぞれの吃音者から得られた自由会話を対象にして、発話中に生起した非流暢発話をタイプ別に分類した。非流暢のタイプを単語間非流暢、言い直し、語ならびに句の繰り返し、挿入語とした場合、1名の吃音者において、単語間非流暢と言い直しあるいは挿入語とのクラスタリングが高頻度で生起していることが観察できた.しかし、別の1名の吃音者では、この組み合わせでのクラスタリングは観察できなかった。しかし、単語間非流暢のいくつかのタイプが組み合わさった非流暢の出現が確認できた。これらの結果から、吃音者の非流暢発話は、複数のタイプが組み合わさった非流暢であることがわかった。しかしクラスター化の状態は、吃音者間で個人差が大きいことから、このクラスタリングの現象は話者の非流暢への対処の結果であると考えられた。これまで、吃音児の非流暢には、正常非流暢児の非流暢に比較して、クラスタリングが多く出現することが報告されている。そして、クラスタリングの生起状態に基づく吃音児と正常非流暢児との鑑別の可能性も指摘されている。そこでクラスタリングを発話への対処法であると考えると、吃音児では、発話に対して何らかの誤りを感知して修正しようとするメカニズムが、幼児期より働いていることが推測できた。これにより、言い誤りの修正のメカニズムが、吃音の生起と維持とに関与する可能性が示唆された。
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