教員養成において中心的な位置を占めている教育実習は、教職を志望する大学生にとって、単に教師に必要とされる知識や技能を実践的に学習する機会ではなく、彼らはそこで生徒とも教師とも違う実習性という特別な存在として教育(子ども・子ども・学校)と出会っている。本研究は実習生のそうした新しい教育との出会いの体験を実証し、その体験が教員養成において果たしている意義を明らかにしようとしたものである。具体的には2つの作業を行った。ひとつは教育実習に取り組む大学生が教育に対するいかなる構えを持っており、教育実習によって教育に対する考え方にどのような変化するのかを概観するために大学生に対して質問紙調査(1691名)を実施し、もうひとつは教育実習の参与観察を行ない、実習記録、インタビューデータ等を主たる資料として現象学的な記述的分析を行った。後者の作業は現在も継続中であり、結果はまだ公表に至っていない。質問紙調査の結果からは特に以下の3点が明らかになった。1.教育実習を体験する学生たちはそもそも学校体験を通じて学校や教師と親和的な関係を築いている。2.彼らは学校体験を通じて教師に近い見方を既に身につけている。3.教育実習で実習生は教育を理想的なものとして体験し、教育について理想的なイメージを強化していく。教育実習の中で作られるこの理想的な教育イメージは、本研究に先立って実施した教師調査の結果と比較分析を行ったところ、教師になった後により現実的なものに転じることが明らかになったが、参与観察の中で指導教官(教師)が積極的に実習生に教育の理想的な姿を体験させようとしていることが観察されており、教育実習の中で<教師のエートスとしての理想的な教育像>の実践的な世代間伝達が行われていることが推察される。現在継続中の現象学的な記述分析では、この仮説の検証が主要な課題のひとつとなっており、今夏には結果を公表する予定である。
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