本研究は、行為主体者という観点を中心に、アメリカの学校選択制の形成の理論研究を行い、それらを参照しつつ、日本における学校選択の議論について検討することを目的としている。本年度は、アメリカの学校選択制については、その形成理論としての「市場」について検討を行い、その成果を学術論文として公表した。 同論文では、以下二つの仮説を設定し、(1)ヴァウチャー、(2)マグネットスクール、(3)学区外学校選択、(4)チャータースクール制という、四つの学校選択の形態において、その検証を行っている。それらは第一に、市場は、制度目的に応じて利用かつ制御することができる。第二に、交換を基本とすることから、分権的な制度の構築を可能にする。これらの性質をもつ市場が、「社会的正義」とは異なる新たな制度論理、すなわち「交換的正義」を提示することを示している。 日本の学校選択に関しては、今日の行政改革において、通学区域制度の弾力化ならびに学校選択の実施が検討課題の一つとされていることに着目し、それらがポスト福祉国家における政策理念を反映するものとして理解できることについて検討し、その成果を論文としてまとめた(本申請書11.に記載)。 福祉国家のゆらぎは、臨時教育審議会にみいだすことができるが、それが貫徹されるのは、90年代後半に入って顕著となった一連の行政改革論においてである。この行政改革論では、明示的な「効率」という目標だけでなく、「国民の主体的な参加」についても目標とされているのであり、それにより学校選択という国民の参加を可能にする制度が登場したと考えることができる。国民の参加あるいは自己責任を意図した学校制度の追求は、各先進諸国でおこっており、日本の動向も世界的動向と歩調を合わせたものであるといえる。
|