本年度は、ハンナ・アレントの公教育思想の形成と展開を、アレント自身の思想形成史に即して検討する作業を行うと共に、そこで得られた知見を、現代アメリカにおける多文化主義教育をめぐる論争と、現代学校論に関連づけて考察し、研究成果としてまとめた。そこから、以下の3点の知見を得た。1.多文化主義教育の教育論争におけるアイデンティー問題のアポリアを克服する視点としての出生(uatality)概念への注目。2.1をふまえ、公共性を共同体的空間論から時間論へと発展させる視点。3.時間論的視点を制約してきた近代教育思想におけ保護と進歩と概念を批判的に相対化すること。特に、3については、ハンナ・アレントにおける初期の思想形成を、ドイツ時代のものを含め得分析する課題の重要性が明らかとなった。これは、先行研究においては十分に解明されていなかった課題であり、この点を含め、次年度以降の研究課題として深めていくことの意義が確認された。
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