「学校の自律性」は、今日のドイツにおける教育改革の最大のキーワードである。1992年にヘッセン州、1993年にニーダーザクセン州において、学校の自律性を強化することを意図して学校法改正が行われ、また、ブレーメン州、ハンブルク州、ノルトライン・ヴェストファーレン州において、学校の自律性強化を核として教育改革を進めるための報告書がそれぞれ1993年、1993年、1995年に提出された。いずれの州においても、教育の「質」は、本質的には、個々の学校にあらかじめ与えられた大枠の条件によって規定されるということを前提とし、個々の学校の関係者の権限と裁量余地を拡大すべきとする点において共通性がみられた。 こうした教育行政上・教育政策上の刺激をうけて現在展開されている「学校の自律性」論には、第一に、「組織開発」の観点がとりいれられており、一定の期間ごとに評価される学校プログラムを積み重ねて形成する学校プロフィールを重視したものとなっている、第二に、効率性・経済性の観点がクローズアップされている、という特徴がみられた。これらは、結果的には、学校や教員に多くのものを求めることになり、そのため、多くの教員が学校の自律化に反対するという、ある意味で、1960-70年代の教育改革期とは逆の状況になっている。教員には、教育に関わる専門的力量の他、行政的任務を果たす能力の必要性が指摘され、その資質向上のために給与面での格差づけを行うといった大胆な提案もなされており、また、校長には、教員の「学習する」過程を組織するマネジャーとしての役割が期待されていた。そして「自律的学校」実現に向けての焦点の一つが、自律化によって「市場」の勝者と敗者がうみだされることをどのように解決するのかということであった。
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