平成11年度は、前年度に引き続いて、集団にとって重要とされている中心的生計活動の蔭で、脈々と受け継がれてきた周辺的生業(minor subsistence)に関して、フィールド・ワークを主体とした基礎的な聞き取り調査、参与観察、映像記録などを行った。具体的には、沖縄県における闘牛と伝承的家畜飼育を中心として調査対象とした。この調査対象は、本研究の中心的対象である伝承的な周辺的生業と位置づけることができる。本研究の基礎調査の結果、その周辺的生業は、従来、生態人類学や民俗学において、生業研究の基本的な視点であった、多資源適応、あるいは危機回避の戦略、商品経済への拡大などという生態的、経済的な要因からは理解できないような様相をもつことが明らかになった。そこには、経済的なメリットが失われても、その生業を継続する大きな動機が存在していたのである。最終的に、本研究では、現実に今でも存在している、人間と環境との多様な伝承的関係性の実態をつぶさに観察することによって、伝承的な生業の内部に新たな価値を付与する意図的な不完全性を発見した。その不完全性は、1、経済レベルの不完全性、2、技術レベルの不完全性、3、所有レベルの不完全性に分けられる。これらの不完全性が、労働に本質的な楽しみを付与し、その活動の背景に存在する環境への負荷を低減させるのに寄与している
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