本研究の成果は以下の3点に集約できる。第1に近世期における読書生活の実態をうかがうために、岐阜県羽島市福寿町旧本郷村の庄屋、花村家の蔵書資料調査を行なってきている。これは来年度も継続し、蔵書目録の完成をめざすものであるが、ここまでの調査で、同家の蔵書は和刻本の漢籍及び和文の物語などが主なものであること、さらに日用生活書(礼法書、大雑書など)もあることが確認できた。それらのうち一部は、新本として購入したものではなく、古書として蔵書に加えられたものであることが蔵書印等から判明する。また、同種の漢籍が多く集蔵されているのは、寺子屋に類する活動を同家が一時期行なっていたことを示している。 第2に沖縄県宮古郡城辺町砂川、保良両集落でのソウシ(双紙)調査では、従来確認されていた砂川のソウシの書写と継承が、隣接する保良でも行なわれていたこと、しかし、その内容は、かなり簡略なものになっていること等が確認できた。さらに同集落では大雑書の刊本も伝存していたことも確認でき、ソウシと大雑書との関連がかなり深いものであることが見通せるようになった。 第3として青森県下における大雑書類の写本の形成については下北郡、三戸郡で調査と伝本の確認を行ない、特に『東方朔秘伝置文』とその類書が、三戸郡から県境を越え、岩手県二戸地方にも伝来していることを確認した。これは民間における陰陽道の浸透過程ととらえることができる。さらに、内容の詳細な分析と周辺の民俗事象や所蔵者の社会的な位置などについて検討を行なう必要がある。総じて、書載の知識が伝承化していく実態について書物の側からの具体的な検討を進めることができつつある。来年度は特に第1の点に関連して蔵書目録を完成させ、公表することを目標として掲げたい。
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