本研究においては北奥羽地方(青森県、岩手県)、中部地方(岐阜県)、南島地方(沖縄県)において、それぞれの地域における読書行為の実態と読まれた書物の書誌データの整理、書物自体の内容及びその民俗化についての調査研究を行なった。その結果として、以下のような知見が得られ、成果報告として日本宗教学会、日本民俗学会で研究発表を行ない、別項の研究発表の項目に示すような論文に結実した。ここではその概要を示す。 第1に北奥羽地方においては農事に関わる陰陽道書が広く読まれ、そこから得られた知識をもとに生業が営まれた他に、新たな書物(写本)が近世末から近代にかけて作り出されていったことが明らかとなった。これらについては『人文社会論叢』1〜3号に研究成果の一部を発表した。第2に中部地方の読書生活については岐阜県鳥羽市の花村家の蔵書の調査を集中して行ない、調査をほぼ終了した。成果は2000年中に整理を終え、勤務先の紀要に投稿する予定である。第3に南島地方のソウシ(双紙)及びその周辺の伝承の調査では、従来知られていた宮古島だけではなく、波照間島、久米島、奄美大島、喜界島等に類似の書物の伝来があったこと、関連する説話も南島地方には濃厚に分布することが確認された。これらの成果の一端は『宗教研究』323号に掲載されている。総じて調査研究は順調に進んだが、そのなかで調査地域の拡大の必要性が見いだされ、また、書物の内容の分析をさらに綿密に行なうことが今後の課題として残った。 今後は蔵書史科学や生活文化史との連携を深めるとともに、農業史や気象学史といった自然科学の発展過程にまで目配りして、読書生活と経験的生活科学(伝承)との関わりを追究していくことが課題となると考えられる。
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