本研究の目的は、マリ共和国バンバラ社会での3回の調査で得た資料、ならびにパリのフランス国立東洋言語文明研究所での研究成果に基づき、バンバラ社会における一夫多妻制の諸相を考察し、人間関係の表象の仕方と一夫多妻制との関わり、とりわけ、女性の社会関係に関する女性の側からの認識の仕方について分析を行うことである。 初年度の計画は、(1)バンバラ社会において女性の占める位置の検討、(2)住民調査の結果に基づいた、一夫多妻婚の実態の把握、(3)一夫多妻制に内在する、個人間の対立を生み出すような側面の考察、以上の3点であった。 (1)(2)については、現在も分析を継続中であり、(3)については、とくに共妻間の関係に焦点をしぼって、共妻間の対立に関するインタビューを採録したテープを起こす作業を目下、進めている。共妻間の関係を語る際のインフォーマントの語り口の特徴として、現段階で言えることは、確証がないにも関わらず、共妻が自分に対して何らかの超自然的な働きかけをしていると信じていること、しかし自らは共妻に対して超自然的な応酬はしておらず、状況が改善することをひたすら願っていること、不幸な出来事の原因を共妻の言動に求めようとしていること、などである。 また、1998年12月から1999年2月までマリで行った調査では、(3)の点を補足するようなインタビューをバンバラの村で行なうと共に、調査対象地の歴史に関わる文書をバマコの古文書館で調べた。また、マリに滞在中のGerard DUMESTRE氏(フランス国立東洋言語文明研究所バンバラ語教授)と調査地のバンバラ語方言の形態素の特徴について意見交換を行った。
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