研究概要 |
本年度は、これまでのオリエンタリスト的他者認識研究の中心が西欧を中心に行われてきたことに鑑み、19世紀前半のアメリカの他者認識を中心に研究を行った。具体的には、当時太平洋を探検航海したアメリカ海軍軍艦の記録や環太平洋交易に従事したニューイングランド地方の商人の航海記録などを通読した。近年の電子図書館化の急速な進展にともない、活字化された一次史料の電子化がアメリカで急速に行われつつある事実及び、全体の30パーセント以内という外国旅費の制限を考慮し、今年度は渡米を中止し、国内の研究機関に存在する資料の検討することにした。それらの検討の結果、アメリカの独自性の出現の時期は、アメリカ文学研究において重要視されているアメリカンルネサンス期と重なること、また、アメリカおいてもヨーロッパ同様極東とされていた地域が、太平洋への進出に伴って「極西」となって立ち現れてくることの重要性などが明らかになってきた。また,民間人による外交が、政府による外交のはるか以前からその対外関係を形作ってきたアメリカの対外関係において重要な役割を果たしてきた商人と宣教師が、アメリカのオリエンタリスト的他者認識においてそれぞれ異なった形で大きな影響を与えてきており、その影響は今日のアメリカ外交にも見られることが明かとなった。本研究の過程で、欧米のオリエンタリスト的視線の中でアジアの各国が如何に反応したかについても検討を加え、その副産物として、日本がアメリカによる人種差別的立法にどのように反応したかについて、紀要に一論文を執筆した。
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