本研究は20世紀初頭におけるトルコ公債問題及びバグダード鉄道問題との統一的把握を通してヨーロッパ帝国主義のトルコ支配の特質を析出することを目的とし、この目的を達成するため本年度は1903年トルコ公債統合計画の歴史的位置を把握することを課題とした。この課題に基づぎ本年度は資料収集を進めながら、学会報告及び論文投稿を行い、以下の知見を得ることができた。 1. 1881年のムハレム勅令によって成立するトルコ負債償還体制は、19世紀中葉のトルコ公債投資がイギリス資本を基軸に展開した事実を背景として、基本的にイギリス債権者利害の保全を目的とするものであった。これは(l)主としてイギリスで保有される公債に有利な利払償還計画が採用されていること、(2)負債償還体制を管轄する公債管理局評議会の議長職をイギリス債権者代表が確保していること、によって体現されている。 2. かかる原則で展開された負債償還体制は、19世紀末における展開過程において次第に欠陥を露呈する。これは(1)公債管理局の積極的活動にもかかわらず利払償還の抵当財源収入が十分上昇しなかったこと、(2)この結果イギリス債権者はムハレム勅令の規定する最低年率での利払償還を甘受せざるをえなかったこと、に体現される。かくして世紀転換期以降イギリス債権者は利子引上を求めて運動を開始することとなった。 3. 一方で負債償還体制は、(1)新規公債投資に対する利払償還の保証、(2)鉄道投資に対するキロメートル保証の支払によって、仏独資本のトルコ進出をも支援することとなった。この結果仏独資本は20世紀初頭においてバグダード鉄道計画を遂行する際にも、その前提として、公債管理局による投資保証を要求することとなった。 以上の点から、1903年におけるトルコ公債統合問題がイギリス債権者の利子引上運動と仏独金融資本のバグダード鉄道融資保証要求との対抗のなかで成立したことを明らかとするとともに、バグダード鉄道計画が、負債償還体制の再編(基底利害のイギリスからフランス・ドイツへの移行およびこれに伴う公債管理局の機能の旧公債投資保全から新規公債・鉄道投資保全への移行)を前提として、はじめて可能となったことについて展望を得ることができた。
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