本課題は、秦漢青銅器の銘文「秦漢金文」を中心に、中華人民共和国建国後50年間に新たに発見・収集された関連資料を総合的に整理し、当時の社会的諸制度を検討しようとするものである。本年度は、『考古』『文物』などの中央学術誌にこれまで掲載されてきた資料を集成する作業を進める一方で、現地中国の広東・広西に赴き(8月23日〜9月13日)、実地調査によってデータの不足を補った。論文としては、金文とならぶ同時代の金石文字資料である印章類の分析に重きを置き、昨年度に続く一連の成果を発表することができた。『東洋文化研究所紀要』に発表した「印からみた南越世界」(後篇)は、当時の政治制度とその理念を、地方政権の側から読み取ろうとした試みである。香港中文大学で開かれる「中国古璽印学国際研討会」(3月9日〜11日)において発表予定の「南越印章二題」は、その内容を中国の学界向けに再構成したものである。収集した資料全体の整理・分析はなおも継続中だが、現在までの基礎整理の結果から、生産・流通にとどまらず、官制・度量衡など当時の社会の各側面についてのいくつかの新たな切り口が読み取れる。体系的な論考として成果をまとめあげる一方で、そのデータをデータベースとして広く公開していく道を探ることが次の目標である。
|