狩猟・採集が生活の中心であった縄文時代の文化を考えるためには、当時の主要な生業の一つであるシカ狩猟の季節性を調べることが有効な手段となる。そこで、遺跡出土のシカについて新たに死亡季節査定基準を作製し、それを用いて、縄文時代の遺跡から出土した資料の検討を行うことが本研究の目的である。1998年度・1999年度のうち、今年度は多数のシカ現生資料を観察・分析して、その結果を基に肉眼観察による顎骨の歯の萌出・交換状態を用いた死亡季節査定の基準を作製することを目標とした。そして、北海道の斜里町知床博物館所蔵資料180個体については観察・計測・写真撮影を終了することができた。これらについては顎骨の歯の萌出交換状態だけでなく、歯の長さ・幅・磨滅状況などのデータも記録しており、このデータはパソコンでの打ち込みを終えることができた。データは現在整理・検討中であるが、死亡季節の査定基準をほぼ作り終えることができ、またデータの母集団をかなり大きくすることができたので、査定の誤差(個体差や雌雄差によるずれ)についてもある程度言及できると予想している。また、現生資料のデータの検討と並行して、北海道の縄文時代遺跡出土のシカ資料についても上・下顎骨の観察を行い、後臼歯萌出段階による分類に取りかかっている。シカは一産一仔であることから成獣が多く出土する傾向があり、幼・若獣の資料数の少ない遺跡が多いのでまだ確定的ではないが、同じ北海道内であっても遺跡によってシカ狩猟に季節性の違いがあることが明らかになりつつある。
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