研究概要 |
本年度は破砕副葬品の想定されている品目のなかから石釧と管玉を選択し、資料の実地観察にもとづく埋葬行為の類型化の試みを実施した。具体的な作業内容は次のとおりである。 1, 石釧については、茨城県常陸鏡塚古墳出土品、京都府北和城南古墳出土品、大阪府茶臼塚古墳出土品、滋賀県安土瓢箪山古墳出土品、愛媛県竹下遺跡出土品、香川県赤山古墳出土品、徳島県前山古墳群付近出土品、同県蘇我氏神社古墳出土品の観察と実測調査を実施した。また管玉については京都府北和城南古墳出土品、愛媛県朝日谷2号墳出土品、香川県野田ノ院古墳出土品、徳島県蘇我氏神社古墳出土品等の観察を実施し、端部の摩耗度の観察から、副葬品として埋納されるまでの使用状況を復元し、類型化を試みた。 2, 上記の資料中、徳島県石井町前山古墳群中の前方後円墳出土石釧、および隣接する蘇我氏神社古墳群出土の石釧については、出土古墳の実態を把握することに主眼を置き、資料の観察・実測のほか、前山古墳群中出土と伝えられる資料の出元(本来の出土地)を追跡すべく、周辺遺跡の確認調査および埋葬施設の現存状況確認作業を実施した。 3, 上記の作業を実施した結果、石釧の多量副葬が認められる古墳には破砕副葬も制作時からの長期間の使用の痕跡も認められず、副葬用として一括製作され、埋納された可能性の高いことが判明した。破砕副葬品については、制作時から副葬時までの時間的経過を把握する指標を、本年度は未だ見いだしえていない。管玉類については弥生墳墓の副葬品と古墳への副葬品とでは端部の摩耗度に著しい差をもつことが判明し、本品目の摩耗度を指標として古墳時代の副葬行為が特色づけられる可能性が濃厚であるとの仮説を得るに至った。来年度は、上記の仮説を検証すべく、弥生墓での状況を比較していくとともに、石釧の観察所見との対応関係を整理したい。
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