講式関係の文献資料の収集を継続し、合計2度にわたり京都の古社寺(高山寺)等への原本の実地調査を行った(平成11年7月・平成12年1月)。研究費によって購入されたコンピュータを利用し現在までに、明恵が著した講式大半の整理・入力を終えた。さらに、それら写本を系統別に整理し文献学的に定位する作業を行った。それらをうけ、本年度は主として、講式にもちいられる言語の国語学的分析を遂行した。その結果、講式の言語が訓点資料に見られる言語とは性質的に異なった点があり、より和文さらには口頭語に接近していることが判明した。その点で、本研究の目的であった、「語りもの」の源流としての講式に現れる言語の位相を定位し、共時論的な位置付けを明確にするという課題がおおむね達成できたものと信ずる。 従来、講式は訓点資料の一つとして扱われることが多かった。しかし、経文を理解するという理解行為と、聴衆の面前で儀式を執り行うという表現行為との間には自ずから違いがあり、その相違が言語面にも表出している。講式の言語は表現行為の一つとして、漢文訓読の枠に収まりきらない側面を持つ。具体的にはより和文に近く、さらには口頭語に接近している。 その成果の一つとして、本年度は、明恵による講式の一つである羅漢供式の影印、翻刻、解題を『明恵上人資料 第五』中に公開することが出来た。 今後は、講式作者の教学・思想的な面を視野に入れ、仏教文学全体の中での講式の占める位置について考究することが課題である。
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