古代語の語彙に関する先行文献数点をもとに、使用頻度や意味分野を考慮して、基本的な情意述語(情意形容詞とそれに対応する動詞)を、約20対(怪シ・怪シム、悔シ・悔ユ、嬉シ・喜ブなど)抽出し、分析対象の語に定めた。その際、比較の意味で、状態述語、感覚述語、評価述語の対を数組加えた。抽出された情意述語等の一つ一つについて、古代の和歌資料・和文資料・漢文資料・漢文訓読資料・和漢混淆文資料の代表的文献から、用例を検索し、パソコン上に蓄え、分析研究用の基礎的なデータベースを作成した。 このデータベースをもとに、各用例について、述語が関与する統語情報として、1主体の人称、2述語の形式、3対象語の形式、4対象語の内容、5共起語の形式、6共起語の内容、7文脈の照応、等の情報を付与している。この情報付与は目下継続中であるが、一通り情報付与が終わった述語については、各情報を総合して、述語が関与する統語構造と、そこに盛り込まれる意味内容の記述を試みている。記述に見通しがついた語の対から順次論文として成果を報告しており、本年度は4つの論文として公開した。こうして、個々の述語の記述が集積されていくにつれ、情意述語が関与する一般的な統語構造や、統語構造とそれに盛り込まれる意味内容とめ対応関係などが、次第に解明されつつある。同時に、一般的な統語構造の枠組みのなかで、情意のタイプによって異なる個別的な特徴についても、把握しつつある。今後は、一般性と個別性を統合した記述を押し進めることによって、情意述語の意味記述の方法について、見通しが得られるものと考えられる。
|