本研究は、地方の人形浄瑠璃のかしらを資料として、人形浄瑠璃の発生と展開に関する問題の究明を目的としている。 本年度はまず、三人遣いの発生・発達の過程について考証を行い、その結果、以下のような仮説を立てた。 基になる資料は、平成10年12月までに調査を行った34ヶ所、1273個のかしらのデータである。中でもうなづきを操る形式に着目し、分布図を作成した。 うなづきの形式には大きく分けて二種類、引栓式と小猿式がある。引栓式は人形の動きにおいて微妙な表現が可能である。技術的にも高度な技を必要とする。小猿式は引栓式に比べると人形の動きは荒くなる。 両形式の分布状況をみてみると、引栓式は文楽の地である大阪を中心に数も少なく、狭い範囲にしか分布していない(遠隔地の引栓式は近代に入ってからの移入であることが確認できる)。小猿式は数も多く、引栓式の範囲の外周部に広く分布している。ちなみに一人遣いの伝承地は、さらに小猿式の外側に点在している。 これは、周圏論が適用できる分布状況と考えられる。従って、周圏論で解釈するならば、最も外周にある一人遣いが一番古く、次に三人遣い小猿式が分布し、三人遣い引栓式が最も新しく興り広がった、というように解釈できる。即ち、三人遣いにおける引栓式と小猿式に前後関係を考えることができるのではないか、というものである。 以上は、あくまでかしらの全国調査の途中で思いついた仮説である。総合的な判断を下すには、より多くの資料を収集する必要がある。よって、今後さらに調査を進め、資料を収集し、先の仮説を確実なものにしていきたい。
|