本年度は、十一世紀後半から約二百年間流行した新興歌謡・今様について、同時代の和歌との関わりを中心に考察した。この結果を組み入れて博士論文『今様の研究』をまとめ、お茶の水女子大学より、博士(人文科学)博乙第八五号を授与された。本論の章立ては第一章「和歌と今様」(今様と和歌の関わりを、和歌から今様への影響・今様から和歌への影響の二側面から論じる)・第二章「説話・伝承と今様] (説話・伝説を内包する今様、及び今様を内包する説話伝承について考察する)・第三章「物語と今様」(物語に含まれる今様や、今様と発想基盤を同じくすると思われる物語の記述について論じる)・第四章「宗安小歌と今様」(室町時代中期以後に歌われた『宗安小歌集』所収小歌の発想の源として、今様を指摘できる事例を考察する)・第五章「信仰と今様」(今様の場や詞章、今様起源譚の分析から今様と信仰の関わりを論じる)とし、本研究は第一章に組み入れたものである。博士論文は中古・中世文学における今様の位置を考えようとしたもので、本年度前半は研究対象として院政期の文学を据えたが、本年度後半にはさらに時代をこえて、近代の作家たちの今様享受についても視野に入れ、川端康成の作品を例として、歌謡享受の跡をたどるために基礎的な作業を行った。その結果は「川端康成と古歌謡-船遊女をめぐって-」と題した雑誌論文に発表した。
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