研究概要 |
本研究は初期近代英文学におけるケルト諸地域の文字的表象を考察することを目的としているが、本年度における研究成果は、いずれも1999年中に刊行される予定である以下の二論文にまとめられている。 1. “A Welsh Monarch and the English Nation:The Faerie Queene as an Early Modern National Epic″においては、『妖精の女王』第二巻第十篇中の『ブリトン人年代記』と、第三巻第三篇の「マーリンの予言」を通じて、ここに書かれたブリトン人君主の系譜の主題が、中世以来の伝統である、血筋の連続性からイングランドの支配者の歴史に変化していることを指摘した。加えて、この作品の第四巻第十一篇に書かれた河川のカタログを併せて考察し、スペンサーの関心が王家の歴史からイングランドという土地の歴史に移行していることから、国民国家形成の中心としての国土の重要性を示しているという、この作品の近代性を論じた。 2・ "Princes,Rebels,and Subjects:Welsh Characters in Elizabethan History Plays"では、中世において最も積極的にウェールズとスコットランドに対する侵攻を実施したイングランド王であるエドワード一世を扱ったジョージ・ヒールの『エドワード一世』並びに、やはり中世英国史を扱った作品であるシェイクスピアの『ヘンリー四世・第一部』『ヘンリー五世』の歴史的言説の中でウェイルズの役割が極小化されていること、また、ウェイルズについての場面では、イングランドの歴史の語りが中断されていることを、英国民国家形成期における歴史記述の伝統との関連において論じた。
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