言語の音過程を類型論的な見地から捉えることが本研究の大きな目標である。昨年度の融合、弱化などの母音のさまざまなプロセスに関する研究をふまえ、今年度は子音に関するプロセスを中心に分析を行い、より総括的な研究を目指すことを心がけた。 分析の結果、母音過程を説明する上で有効的であったlicensing(認可)、Complexity condition(分節音の複雑度に関する原理)が軟化現象などの子音の音過程を捉える上でも重要であることが、英語、スペイン語、インド=アーリア語の通時的データ及び、セソーサ語、ルマサバ語の共時的データから確認することができた。ただし、本研究をとおして、今までの統率音韻論の主張を以下のように修正する必要があることが明らかになった。 まず第一に、イタリア語の硬化(fortition)の分析から、という従来の「すべてのエレメントが分節音の複雑度に関与する」という主張に反して、直接複雑度に関与するものと[U]などの関与しないエレメントとを区別する必要があることが明らかになった。さらに、[H]や[L]の2つのエレメントのうち[L]だけでも十分音過程を説明できることが明らかになった。 今年度は社会言語学的観点からも音変化について検証した。特に「黒人英語」の音過程の分析をとおして、ある音変化が他のものよりも繰り返し言語差を越えて生起するのはなぜか、ということを説明する上で、「認可」の概念が重要であることが実証された。今後は言語習得・発達との関連で音変化と捉え、有標・無標変化に対する理解を深めていく予定である。
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