研究概要 |
博士論文の序章、一章にあたる部分はほぼ完成しつつある。一章では最近になって発見されたSchreinerの短編“My First Adventure at the Cape"(1882)と彼女の初期の作品Undine(1929)(死後出版)を扱い、当時の英国植民者を政治的にも物理的にも疎外するアフリカの環境や政治的状況や、英国の風景を故郷とする英文学の伝統が南アフリカ生まれの彼女がアフリカを故郷として表象する事を阻む中で、彼女が「植民地生まれの白人」という意識から「南アフリカ人」という意識に近づくまでの葛藤を考察した。その際、科学研究費申請時にはまだその存在を知らなかった“My First Adventure at the Cape"が論文の流れを大きく変えることになった。この作品においては、Schreinerは、英国から来た男性植民者がアフリカについての矛盾に満ちた帝国主義的テキストを生産するメカニズムを冒険小説のパロディを通して暴いている。このように、アフリカを[他者]として表象する英国から来た男性植民者のテキストへの鋭い批判精神を持ちながら,それに代わる言説をSchreinerはなかなか生み出せない。その葛藤が如実に現れているのが、Undineである。この作品においで、彼女は南アフリカの風景を表象するのに英国の景色との「違い」を強調し、また、当時まだ行ったこともない英国を途中から物語の舞台に選んでいる。そこには、自分の生まれ育ったアフリカを小説の正統的な舞台として認められないほどに植民地化された意識が見られる。以前はこの作品においてこの内なる植民地化と疎外感(また、それが批評家の大体の見方でもあった)のみに注目していた。しかし研究を進めるにつれ、Undineの後半部分では、男性植民者中心のテキストを覆すような南アフリカの描写も見られることか判明し、それによって、この作品が、彼女のより南アフリカの大地に根ざした次作に通じる萌芽的な作品であることも明らかにされた。
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