大英帝国のかっての植民地における、植民地支配の影響へのひろい意味での批判的視点を動力とした文学をとりあつかう本研究のテーマのうち、1)コンラッド『闇の奥』の「書きかえ」作品の資料収集、調査、カリブ海のJ・リース、J・キンケイド、D・ダビディーンらについて論文作成を行うことができた。このテーマについては数百枚の論文作成を計画しており、平成十年度にその準備がかなり整ったことが当該研究者にとっては一番の成果であった。本年度は2)シェイクスピア『テンペスト』のポストコロニアル批評にかんする議論が日本で盛んに行われ、出版や論文発表も相次いだ年であった。しかしそのなかでもまだまだ議論のない分野・作家は多く、カナダのR・ディヴィス、パキスタン出身のZ・ゴーズの『テンペスト』書きかえにかんする試論を発表できたことは小さいが貢献といえると自負する。さらに日本ではまだまだ紹介の遅れている3)英語圏先住民の現代文学におけるに位置ついて、成城大学を基盤とした学際的研究会(民族学研究所主催)で発表し、カナダ、オーストラリアの白人作家たちの先住民憧憬、さらに歴史的な観点から「先住民になりたい」というねじれたアイデンティティ・コンプレックスの文化論的研究を進めることができた。これはまだ調査研究の余地を大いにのこす分野である。とくに南太平洋に関するヨーロッパ人のファンタジー、それにたいしてさまざまな反応を示す南太平洋の作家たちの言説にかんする研究に、本補助金による図書の購入、さらにインターネットを通じての国際的情報交流の場への参与で触発されたことは大きな成果であった。さらに研究者が15年間収集してきたオセアニア地域にかんする国内外の新聞雑誌記事の資料整理を依頼し、研究資料として活用できる状態になった。今後の研究に生かしたい。
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