本研究は、アメリカ南部に関する文化表象の歴史的変遷をたどることを旨としている。第1年目にあたる1998年度は文学、建築、画像、映像、服飾その他における南部的表象の歴史的な推移を示す書籍、ヴィデオ、CD-ROM等を収集し、包括的な表象文化史研究のための資料集を作成し、インデックス化する努力をおこなった。その際、特に文学作品、あるいは映画作品などに統合的に現れる南部的表象を分析するために有効な視点を新たに案出するべく、主に政治的発展を中心に据えた南部史における伝統的な区分(例えば、旧南部期→南北戦争期→再建期→新南部期→南北再統合期→……のような)に、人種間の関係の歴史的推移、ジェンダー観あるいは家族観の歴史的推移(ここで言う「家族」は直系的・傍系的肉親関係からなるいわゆる"family"ばかりでなく、所有奴隷を加えた"household"も含められるし、奴隷制度消滅後は白人土地所有者と黒人あるいは「貧乏白人」からなる小作人"share cropper"との、大家-店子的関係も含むことになる)、北部(およびアメリカのそのほかの地域)における「南部」ないし「南部人」のイメージの歴史的推移などを有機的に連関させ、以上の複数のスケールにおける推移速度のずれ(マルクス主義歴史家などの言う「歴史の残余」など)を考慮しながら、より柔軟かつ包括的な歴史区分のあり方を析出する試みを行った。いずれの目標もいまだ完成までの過程にあるが、その中間的成果を2本の論文(うち1本は日本語と英語の2種)に発表し、加えて第1回日本ウィリアム・フォークナー協会において、シンポジウム「フォークナーと世界文学」のパネリストとして発表した。また南部に生まれ、南北戦争を期に政治的スタンスを北部側へと変更しながら、以後も南部への強い執着を持ちつづけた作家マーク・トウェインの評伝的文学研究に着手しており、来年度はそれを完成させ、再来年度以降に出版することを計画している。
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