概念史的アプローチによって十八世紀フランス啓蒙主義期思想・文学の潮流を多角的資料分析によって辿り、それを「生命学」Science de vieの観点から整理し、ことに百科全書思想家ディドロの思想的生成のうちにその独自性を取り上げて考察した。研究期間の初年度にあたる本年においては、特にディドロの初期著作から『百科全書』執筆期に(いたる流れを追い、『自然の解釈についての断想』(1752)に集約的にみられる生気論的思考の萌芽を、同時期に執筆された『百科全書』ディドロ執筆項目等のスルス分析と比較照合する調査をおこなった。 その過程で特に注目されたのは、これまで指摘されることの少なかったオランダ・ドイツの北方プロテスタンティズムの系譜とディドロ思想の関係である。ヤコブ・ブルッカーの一連の「哲学史」的言説にみられるネオ・プラトニスム的傾向、さらにヴァン・ヘルモント以降の神秘主義的化学思想などの物質把握など汎ヨーロッパ的思潮が、ことに十八世紀中葉までの印刷物・書籍刊行物のネットワークの非合法的拡大にともなってフランスにおいても多くの思想的系譜をつくりだしていることが資料分析によって指摘ができる。
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