十八世紀啓蒙思想のフランスにおける展開を主に百科全書思想家ディドロの著作を中心に考察し、これまで研究の掘り下げられてこなかった十八世紀的「生命学」-医学・生理学にとどまらず、そのひろがりは美学・哲学・文学・科学思想・道徳学をも含みまたがる-という動的な概念を下に調査した。研究上の主眼としては平成10年度期に『百科全書』を媒介とする同時代フランスの知的・文化的交流を分析すること。平成11年度期には、モンペリユ学派のボルドゥーやメシュレ・ド・シャンボー等医学者の生気論的生命概念の生成した文化的コンテクストとその知的系譜の諸概念を考察している。その結果、『ダウンベールの夢』の草稿生成において鍵となったディドロ晩年のノート『生理学要網』(Elements de Physiologie)における身体論的概念の転回点としての重要性が明らかになった。後期ディドロ思想の特徴を考察するためにこれらのテクストのもつ意義にあらためて光をあて、そこから逆照射することによって、ディドロおよび十八世紀啓蒙思想の特異な発展のありかたの問題を提起した。
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