今年度は、研究実施計画にあげた3つのトピック、(1)使役構文の格マーキング、(2)他動詞構文の目的語上の格交替、(3)抽象的格と形態的格の対応関係、に沿って研究を進めた。 まず、(1)については、被使役者を対格、与格、道具格によってマークする朝鮮語の使役構文についての研究をすすめ、昨年7月に第11回朝鮮語学国際会議(於ハワイ大学)で論文を発表(論文集に掲載)し、在米研究者からコメントを受けると共に、研究計画全体へのレビューも受けた。帰国後、更に研究を深め、収集した他言語のデータを加えて使役構文の類型論に関する論文を書き上げた。論文は、海外の学術雑誌で現在審査中である。 続いて、(2)については、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の研究プロジェクト「統語類型論における他動性と能格性に関する諸問題」に共同研究員として参加しながら、他動性への2つのアプローチを、プロトタイプとスキーマという2つの側面に分類し、その両者を統合する必要性を論じた論文を国内の雑誌に発表した。そして、この論文を質量ともに拡充した新たな論文を海外の学術雑誌に投稿し、現在、3人のレフェリーからのコメントを基に再提出へ向けて改稿中である。さらに、この2つのトピックについての研究成果を取り入れた日本語の格マーキングに関する論文を、学術雑誌Stuldies in Languageに投稿し、受理された。 最後に、(3)については、昨年の11月に関西言語学会(於奈良女子大学)で論文を発表し、マイケル・シルヴァースティンが1980年に提案した形態的格の分布を記述した「格階層」を、主格/絶対格、与格、対格、能格、属格の間の格融合のパターンを説明するモデルとして解釈することを提案した。
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