平成11年度は、ウェルギリウスの作品『アエネーイス』における創作技法を考察する手がかりとして、『国家について』(De Re Publica)等、膨大な作品群を残したマルクス・キケロの思想のこの作品に対する影響関係を取り上げた。『アエネーイス』第一巻の冒頭には、国家(ローマ)建設を主人公の使命として位置づけるモチーフが繰り返し認められる。この使命を、トロイア崩壊とともに全ての希望を失った主人公にたいし、詩人はどのように、あるいは、それがどのようなものであるとして、伝えているのだろうか。この問題は、詩人の言葉で言うところのpietasとは何か、という問題と不可分である。当時のローマ社会独特の社会通念、宗教観、倫理観などの考察を抜きに、この問題を検討することはできない。このとき、とりわけ、「国家の父」と呼ばれ、当時のローマ社会のみならず、後代のヨーロッパ社会に絶大なる思想的影響を与えたキケロの思想を手がかりとして、同時代の桂冠詩人であったウェルギリウスの作品解釈を行うことが有益である。従って、平成11年度は、キケロの作品の中でも、とりわけpietasの概念を中心として扱っている『神々の本性について』(De Natura Deorum)を取り上げ、その作品解釈を綿密に行うことを研究の中心課題とした。
|