80年代末から中国の人民法院において始まり、新民事訴訟法制定後(1991年)本格化した民事裁判方式の改革について文献による調査を行った。改革が行われる背景・動機・目的、改革の進展状況、推進に当たっての問題点・阻害要因、人民司法の伝統との関係、今後の方向性・着地点などを探った。その結果、以下のような点が.明かとなった。 (1) 裁判方式改革の背景…訴訟事件の急増、純粋な私益に関する権利紛争の増大により、裁判に対する効率性と公正性の要請が高まっていることが直接的な背景要因となっている。法院側の切実な動機は、職権調査を免れることにより、事務負担の軽減を図ることである。これは必然的に当事者への訴訟コストの移転をもたらし、逆に司法に対する信頼を失わせかねない面もある。 (2) 改革の内容…1)当事者の挙証責任を強調する、2)公開の法廷での証拠調べ、審理を訴訟の中心に据える(開廷前に心証を形成しないようにする)、3)合議体ないし担当裁判官の決定権限を拡大する(具体的には、院長・延長による事前審査、裁判委員会による集団的決定事項を縮減する) (3) 改革が遭遇する問題点…1)旧来の司法原則・観念との衝突(実事求是、有錯必糾、座堂間案の克服=人民司法)、2)法改正が必要な制度的障害(裁判委員会制度、際限ない再審制度、上級法院への個別案件についての照会、当事者の処分権への制限など) こうした成果を現在、論文にまとめつつあり、近く脱稿する予定である。
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