今年度は、ルネッサンス期から近現代にかけての環境観をめぐるさまざまな原典・二次文献を購入し、その渉猟に努めたが、その際、本科学研究費補助金によって購入したパーソナル・コンピュータは、国内外の情報の収集に多大な力を発揮した。 17世紀を中心とする環境観の変動を、来年度に向けて個別具体的に探求するに先立ち、今年度はまず、マーチャント、ミース、イリイチらを初めとするエコ・フェミニズムの基本的な文献を読解することによって、近代初期の〈環境への態度〉の変化が、人間観や世界観の根本的変動と連動して起こっていることが明らかになった。すなわち、ルネッサンス期まで支配的であった有機的世界観にあっては、大地・地球がもろもろの存在に生命と運動を与える力をそなえている、言わば“養い育てる母"であるとみなされる一方、女性もまた、生命を生み出す存在としての尊敬をかちえていた。この有機的な枠組みにおいては、母-大地というイメージが自然の搾取・開発に対する一定の制約としてはたらいたけれども、この枠組みは17世紀を境として、自然を生命なき、不活性な粒子からなる、ある種の“機械"とみなす世界観にその座を明け渡すことになる。これは独り自然観の変化にとどまらず、社会も人体もまた、交換・除去が可能な多数の原子的部分(個人、臓器)から成り立っている、ある種の“機械"であるととらえる社会観・人間観の形成をも伴っていた。近代の市民社会が自由主義・個人主義を謳いあげる一方、環境との関係ではまさに〈自然の搾取・開発〉によって、その富を蓄積・拡大しえたのは、社会観・人間観のみならず、このような環境観の根本的変革をも必須の条件としていたのである。 かかる自然観・社会観の変動が、具体的にいかなるプロセスをへて生じたのか、そして、それはまた18世紀の政治経済学の成立にいかなる意味をもたらすのかをいっそう詳細に追究することが、平成11年度の本研究の目的となる。
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