日本では学校教育法で明治以来ほぼ一貫して禁止されているにもかかわらず、現実には教師による児童生徒に対する暴力(体罰)が後を絶たないといわれており、近年になってその実効性を高めようとする動きが出てきている。他方「法の支配」の母国といわれるイギリスにおいても学校体罰は近代初頭にまで遡って行使され続けてきたが、同時にそれを批判し、法禁を実現させようとする動きとがせめぎ合いを繰り広げ、結果として1986年というつい最近法禁にいたる。本研究では、こうした両国の様相を具体的に描き出し、そこに見られる差異と共通性を分析し、こうした国際比較を軸に、法の実効性についての法社会学研究に寄与することを目的とするものである。 本年度の研究実績は次の通りである。筆者は以前、17世紀のイギリスにおける学校体罰禁止を訴えた議会文書を素材に、このテーマで歴史研究を行っている。 (参照: 「一六六九年イングランド『子どもの請願』の学校体罰抑止の言説戦略-近代初期の学校教育と法的論理-」 (北九州大学『法政論集』21巻4号))本年は、本文書の30年後に出された続編('Lex Forcia'(1698-9))のコピーを入手し解読・分析を進めた。またタイムズ紙その他のイギリスの新聞・雑誌等における体罰問題を扱った記事(主に19世紀末から今日まで)、相当数に上る判例、その他関連の歴史資料や論文、法律書、国会議事録なども大量に収集した。イギリス学校体罰禁止法の制定のために活動した団体の一次資料を閲覧させてもらった上、その多くを譲り受けることができた。同時に日本の同種のデータについても一定集めることができ、関連の文献等も収集した。それでも未だ十分に集められていないものち存在し、またこれらの膨大な資料の分析も緒についたばかりで、論文としてまとめることも含め、次年度以降の課題である。
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