本年度は、前年度に引き続いて関連学術文献の収集、摂取に努めるとともに、前年度に収集した実証的データの個別的、総合的分析・検討の作業に重点的に取り組んだ。イギリスのデータに関しては、収集した判例、歴史資料、団体の活動資料、新聞記事、議事録などを個別に検討し、各々に見られる特質を明らかにしていくと同時に、それらを相互に関連づけ、通時的な歴史的文脈に置くことで学校体罰問題のマクロな全体像を描き出すように努めた。17世紀末の市民革命期、19世紀末の公教育の成立期、1960年代以降の教育・社会の現代化の時期の3つを核とし、各々の時代の中での問題提起と展開のありようを押さえつつ、大きな流れを描写し、そのもつ意味をつかみだしていこうと考えて進めたが、近年イギリスにおいて学校体罰問題を越え、さらに家庭内の親権者の体罰をも統制していこうとの動きが、これも学校体罰同様欧州人権裁判所の判決を機縁に、現実のもとのして急展開し、その立法化の動きもあわただしく進行していくという、予想を超えた大きな展開をみせているため、その資料収集や問題のフォロー、議論枠組の変更などに迫られ、当初の予定に若干の修正と遅れが出ている。しかしこの先、予定どおり日本の状況との比較を、収集された各種制度や機関等のデータの中に見られる論理や方法の共通性や差異、その法的意味や全体的連関などを探りつつ社会的因子との関連で探っていこうと考えている。今後そうした包括的な研究とそこに至る各種の個別研究を可及的速やかに進め、逐次公表していきたいと考える。
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