本年度は主として、ドイツ公法学における危険概念を中心に研究した。ドイツで危険概念は、各ラント警察法の一般条項による権限行使の要件であるため、いかなる場合にこの条項に基づいて警察権限が行使できるかの判断の際に特に問題となる。危険概念を安易に拡張することは否定されるが、科学技術の進歩に立法措置が充分対応できていないにもかかわらず、生命、身体および健康等の重要な保護法益に被害が発生する可能性があり、他の方法ではそれを回避できないときに大きな問題が生じる。そこで、従来、一般条項でいう危険が明確にあるとはいえない場合、すなわち、行政庁にとって損害発生の蓋然性にかかわる決定が困難となっているときに用いられるのが「危険の嫌疑」概念である。そして、この危険の嫌疑がある場合には、警察比例の原則によりかなりの制約を受けるが、事実関係等を究明するための一時的な措置として、危険究明侵害権限が認められるとするのが一般的である。また、被害が発生する前に権限を行使することを主な目的としている危険防除法の下では、事後的にみれば危険がなかった場合に、行政庁・警察官による権限行使の適法・違法も問題となる。一般的には、権限行使時点での客観的観察者として危険が存在すると判定される場合には、権限行使は適法とされる。しかし、権限行使を受けた者は、結果として、適法な行為により被害を受けたのであるから、一定の場合、その損失は補償される。このように危険概念は、時代背景や権限行使の対象者に対する補償等、広範な問題とかかわっている。 今後、危険とリスクの異同、それらの判定(とりわけ、危険予測や蓋然性判断)とコントロール方法の選択にかかわる問題点など、より具体的かつ実証的に研究を進める。
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