本年度は、主として危険防除、危険事前配慮、残存リスクそしてリスク管理に関する基本原理、行為形式やそれらの相互関係に重点をおいて公法学の観点から研究をすすめた。一般に、警察作用としての危険防除活動は、ある状態またはある行為によって、事態がそのまま推移すれば十分な蓋然性をもって公共の安全等に損害が生ずる状況、すなわち、「危険」が存在するときに、下命・禁止等の措置を講ずることができる。このような伝統的な危険防除と並んで、環境法や技術法分野では、損害の事前配慮のための措置も要請され、危険事前配慮は、「危険」の存在が認められないような、有害性が低い場合や損害発生の蓋然性が低い場合でも、その時々の技術水準や事前配慮に係る費用・効果の適切に相応している範囲内の措置を講じることで、損害発生の潜在性を低減することに重点をおく。そして、残存リスクは、統計的に蓋然性がない現象の発現あるいはその時々の科学水準では認められない、したがって低減させることが算定できない損害をいい、この種の潜在的危険は社会的に妥当なものとして受忍されなければならない。 ところで、リスクとは、「危険」を誤って見積もる危険であり、このリスク概念は多元的で、予測される危険の程度、危険算定にあたっての知見の密度に依拠する不確実ファクター、そして、誤った予測による結果のコストからなる。危険のみではなく、不確実ファクターをも対象とする法分野では、危険事前配慮のみではなく、リスクマネージメントも必要となる。このリスクマネージメントには、手続的規律と実体的規律が重要で、リスク認定について十分な議論ができること、最大限のリスク低減、適切なリスク配分、継続的なリスクコントロールが必要である。これら理論と調査した危険・リスク管理にあたる実務・実態との相互関係・比較について詳細な研究を今後も進めていきたい。
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