本研究テーマについて、本年度はまず、生存権の具体化である生活保護法の課題に取り組んだ。即ち、保護率の低位性とホームレスの増大という矛盾に典型される生活保護の硬直化にかかわる運用上の問題を取り上げ、その解決方向、地方自治体の保護実施責任論を軸に、法的視角から考察した。その成果は、昨年5月の社会保障法学会で報告し、本年5月発行の学会誌に掲載予定である。次に、社会保障行政において近年進展している情報化にかかわる法的論点について、個人情報保護条例にみる個人情報の開示の現状と課題という観点から、いくつかの自治体へのヒアリングを基に、検討を行った。その成果は、「ジュリスト」10月1日号に掲載した。さらに、9月には、比較法研究の対象であるドイツ社会福祉行政について、ブレーメン市、ブラウンシュバイク市等の福祉事務所で、要援護者に対する処遇に関する行政手続、社会福祉の専門性を反映させた組織体制および公と民の連携のあり方、また近年進んでいる地方自治体の行政改革による影響を中心に、ヒアリングを実施した。その報告書は今年度中に出す予定である。第4に、介護保険法の施行に向けて、生存権を具体化する介護保障請求権の内実を明らかにするという観点、より詳しく言えば、従来の老人福祉法の措置制度からサービス実施をめぐる法律関係がどのように変容するかという視点から、介護保険に基づくサービスに関する法的問題点を考察した。その成果は、「賃金と社会保障」3月上旬号に掲載予定である。 本年度は主として、個別制度の法的論点について、ヒアリングや一時資料等をつうじて、運用の現状を踏まえた具体的な検討を行ってきた。来年度は、ドイツの社会福祉法制との比較検討をさらに進めることで、社会保障法および社会福祉分野での行政法に係る理論構築の足がかりとすることを考えている。
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