インターネットと知的財産権をめぐっては、アメリカ合衆国で大きな動きがあった。1998年10月末に、クライアント等がホームページで働いた著作権侵害行為につき、プロバイダーが免責される条件を確立した著作権法改正が成立したのである。そこで、本年度の研究は、アメリカ合衆国の著作権法改正に至る経緯を追うとともに、改正をめぐる学説の状況を調査することに主眼をおいた。 インターネット時代における知的財産法制のありかたを探究するためには、知的財産法制の体系を構築し、それが拠って立つ基盤を明らかにすることも肝心である。特に、立法論を展開しうるような知的財産法の開かれた体系を構築することが重要であると考えている。来年度は、知的財産法総論に一応の区切りをつけ、インターネット時代における知的財産法制のあり方の探究につなげていきたいとおもっている。 以上の作業を通じて、現段階での結論めいたことを概括しておくと、著作権法制に関しては、印刷技術の進展によるフリーライダーの発生が複製禁止権中心主義の著作権制度の誕生を促し(第一の波)、複製技術の私人への浸透が貸与権や私的録音録画補償金請求権等、複製禁止権中心主義の相対化を招来し(第二の波)、さらに、第二の波に対する対応が完成しないうちにインターネット時代が到来し、誰もが著作物の送り手となりえるようになった結果、公私の区別が曖昧になり、こんどは複製禁止権中心主義を公的使用に対する規制で補うという区分自体が変更を迫られている(第三の波)という歴史感を得るにいたっている。
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