本研究のテーマに関しては、1998年にアメリカ合衆国において重要な法改正がなされたので、本年度の研究は、同改正をめぐる学説の調査に主眼をおいた。結論を概括しておけば、第一に、プロバイダー等に厳格責任を課す法制下では、プロバイダーやBBSの管理者になろうとする者が減少し、誰もが公衆送信することができるというインターネットの特質を妨げかねないこと、第二に、検索技術が発達しても著作権者の許諾の有無が分からないことが多く、侵害を発見するのに適しているのはプロバイダー等よりも、その点を了解している著作権者であることが多いこと。他方で、第三に、誰もが著作物の送り手となれるということは、著作権侵害の可能性が高まったということでもあり、迅速な救済が必要となるところ、著作権侵害が発見された場合にこれを削除することは一挙手一投足でなしうるのであって、その作業はプロバイダー等の方が適していること。以上の三点から、アメリカ合衆国の改正著作権法の志向「告知ないし了知後は速やかに削除せよ」というルールが、穏当な解決策だとおもわれる。 さらに、この作業を通じてインターネットと知的財産法制の関わりあいを探る視点を得るに至った。著作権法に則していえば、印刷技術の進展によるフリーライダーの発生が複製禁止権中心の著作権の誕生を促し(第一の波)、複製技術の私人への浸透が貸与権や私的録音録画補償金請求権等、複製禁止権中心主義の相対化を招来し(第二の波)、誰もが著作物の送り手となりえるようになったインターネットのために公私の区別が曖昧になり、複製禁止権を公的使用規制で補うという区分自体が変更を迫られている(第三の波)という歴史観である。このような情報の創作へのインセンティヴと公衆の利用の自由を衡量する必要性は、たとえばビジネス特許問題等についても妥当するだろう。
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