1998年度は、専ら、証券市場仲介者の最良執行義務の基礎となる英米信託法及び信認義務法に関する基礎的研究に焦点を合わせた。その結果、次のような知見を得るにいたった。 即ち、証券取引のような組織的、専門的なスキームによって構成される現代の金融取引は、一定の資質と裁量権を有するスペシャリスト(専門家)の存在、及びかかるスペシャリストへの信頼によって特徴づけられ、このような信頼を担保する法的スキームがなければ、およそビジネスは成立しない。英米法圏における信託法もしくは信認関係法という法的伝統は、まさに、このような複雑な仕紹みとスペシャリストへの依存という要素を内包する金融ビジネスに、格好の法的インフラを提供するものとなっている。そこで、我が国においても信託法を基礎としつつ、それによっては捉え切れない範囲の法的関係に対しても信認義務を拡張適用し、これを「信認関係」という独自の法概念にまで高めていく努カを、学説・判例においてなしていくべきであると考える。大陸法的伝統に由来する「委任もしくは準委任契約」という器だけでは、あまりに容量が大きすぎてその内容が希釈化され、今日の金融ビジネスの法的インフラとしてはあまりに役に立たないと思われる。 以上の知見を、我が国証券会社に信認義務-最良執行義務を認める基礎作業として位置づけ、1999年度は、いよいよ金融ビッグバンによって変容し、特に証券会社の営業裁量と自由度の飛躍的に増した我が国証券市場における市場仲介者の最良執行義務のあり方を具体的に探っていきたいと思う。
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