本年度は、2年間の研究期間の1年目であり、基本的研究資料の収集・分析と、2年目の研究に向けての研究の視点を確定することに目標を置いた。その成果は、次の各点である。 1 倒産企業のガバナンス論は、我が国では、たとえば会社更生手続の場合、多くの場合更生管財人が裁判所と相談して事業を継続するという説明で片づけられてきたが、アメリカの再建手続では、債権者委員会、および手続の機関である調査委員の権限を強化、調整することによって、また債務者の地位を受託者的なものと理解することによって、適切な倒産企業の統治方法が摸索されている。これらの点は、我が国の企業再建法理論に多くの示唆を与える。 2 倒産処理法にガバナンス論を反映させるには、各手続の適用主体を一定範囲のものに限定することが望ましい。しかし、他方の要請として、立法技術的には多様な法主体(個人も含めて)を対象とする再建手続が求められる傾向もある(たとえば、現在議論されている「新再建型手続」もその例である)。倒産企業のガバナンス論、および倒産法と会社法との関係を論ずるときには、このような立法技術的な観点からの検討も必要である。 3 これまでの更生計画をみると、計画による減資および増資、いわゆる株式振替、合併などが商法の特例により簡易迅速に実行されている。ただ、吸収合併につき消滅会社が債務超過でないことを要するか、という問題など検討すべき課題はある。上述の「新再建型手続」につき、商法(会社法)との関係につきどのような規定を設けるかも問題である。 以上の知見に基づき、主として倒産企業のガバナンス論の観点から、倒産法と会社法の関係について試論をまとめ上げるのが次年度の課題である。
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