本研究によって得た知見の概略は次の通りである。 1 会社再建法と会社法との関係を考える前提として、倒産会社のガバナンス論を通常の会社のガバナンス論と比較しながら分析しておく必要がある。会社は、債務超過であるときは、いわば債権者が株主の地位に立つのであり、そこには特有のガバナンス構造が存在するとみなければならない。この点をふまえて、基本的には会社法とは独立のものとして、会社再建手続に関する法規定および法解釈の在り方を探っていく必要がある。 2 アメリカ連邦倒産法1123条(a)は、1984年の改正によって、"Notwithstanding any otherwise applicable nonbankruptcy law"という文言が加えられたことにより、再建計画案による定めが、会社法など他の州法および連邦法に制限されることなく効力を有するものとした。このような規定の背後には、倒産法外の複雑な法体系を持つアメリカ法に特有の事情もあるが、これにより企業再建がスムーズに行えることはたしかである。なお、狭義の会社法の分野からは離れるが、アメリカ法のもう一つの特徴は、債務者会社の情報の開示を重視する規定(1125条)をおいていることであり、これも、法的再建手続中の会社の規律の上で重要な点である。 3 1999年に成立した民事再生法は、手続を利用できる債務者が会社に制限されない再建手続の中で、会社(とくに株式会社)の組織に関する法規定をどのように取り入れることができるか、という、わが国にとって新しい問題を登場させた。そして、本法は、株式会社たる債務者が債務超過の場合に限定して、営業譲渡および減資につき、裁判所の許可を条件に、商法の特例を定めた(43条、166条)。しかし、会社再建手続を円滑に進めようとする見地からは、これでは十分でなく(合併など他の会社再編成の際に会社法の手続を踏まなければならない)、立法論としては、会社(株式・有限会社に限定するのが適当であろう)の再建については、民事再生法の特別法(または特別規定)をおくことも検討されるべきである。
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