平成10年度は、主に文献や聞き取り調査を通じて、国際環境法の国際私法的側面の問題の探求をした。 環境汚染行為に対する差止の準拠法は何か?損害賠償請求の準拠法は何か?といった旧来から論じられていた問題とは別に、次の問題が存在することが判明した。 最近の環境汚染行為は企業の大規模な操業行為に起因することが多い。このような行為は通常国家(行政機関)によって許可され、その許可の範囲内であれば、汚染の結果に対する違法性が阻却される。ある国で行われた操業行為によって他国の私人が損害を受けている場合、その被害者による差止請求あるいは損害賠償請求は認められないこととなる。準拠法を行動地法とした場合、請求の要件の一つたる違法性が認められないからである。準拠法を結果発生地法とし、請求を認める判決を得たとしても、操業が行われている地ではその行為に違法性が認められないため、この判決が操業地において承認される可能性はきわめて低いと考えられる。したがって、被害者は少なくとも私法上の救済を受けることができないこととなる。 これまでの研究は、このような問題が発生していること、この問題の法的な発生原因の解明にとどまっている。調査した範囲では、この問題に対する有効な対策は提唱されていないように観察される。 平成11年度は問題の解決策を探りたい。おそらく私法のみならず、公法的な解決方法をも加味した従来のものとは異なる策を探求することとなろう。なお、これまでの研究成果は近い内に香川法学に掲載する予定である。
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