平成10年度における研究においては、国際環境法の国際私法的側面において、従来の私法制度の枠内においては被害者が救済を受け得ない可能性が高いという問題が存在することが判明した。平成11年度の研究においては、新たな問題の存在を認識したため、なお研究成果の公表にはいたっていない。 新たな問題とは次のものである。 1.私法の分野は従来私人の権利を保護法益として想定してきたと言える。近年においては、環境それ自体を保護法益とする国が生じてきている。こういった国の政策を国際私法においても尊重すべきか、するとすればどのようにすべきか? 2.従来の私法の枠組みとは関係なく、環境汚染を生じさせる可能性のある企業などの出資によって保険または基金という制度が作られていたり、計画されている。国際環境法の国際私法の側面において、このような制度をどのように顧慮すべきか? 3.これまでの私法はもっぱら結果に対して、対応してきた。すなわち、侵害行為の結果に対する損害賠償あるいは侵害行為自体の差止が主たる目的であった。もっとも、とくに環境といったいったん侵害されるとその回復が容易でないものについては、そもそも侵害の抑止に目的が移行しているように観察される。この傾向は国際私法における連結にどのような影響を与えるのか? このような問題をふまえつつ、国際環境に関する問題を国際私法の側面から把握し、解決策を提示していきたい。さしあたり、本年11月の国際法外交雑誌にこのテーマでの論文を掲載する予定である。さらに、漸次、香川法学に関連する論文に掲載していきたい。
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