(1) ドイツにおける法人格否認の法理 ドイツでは、法人格否認の法理は、コンツェルン法の議論に吸収されたと言われており、現在我が国で法人格否認の法理の問題として論じられている事例は、ほぼ、コンツェルン法上の問題とされている。 そのドイツコンツェルン法において、近年、判例変更があり、新判例によると、親会社が子会社に直接債務を負うのは、親会社の子会社に対する強い支配だけではなく、それに加えて、支配関係から生ずる危険の実現、すなわち、コンツェルン指揮力を行使して子会社の固有の利益を侵害した事実が主張・立証されなければならない。 (2) 日本法への示唆 日本では、コンツェルン法のような立法がなく、親会社に子会社債権者に対する直接の債務を負担させる成文法はない。最善の策は、我が国においてもコンツェルン立法を急ぐことであるが、解釈論としては、法人格否認の法理の適用要件を、親子会社に対する適用という観点から具体的に確立することである。その要件を検討するうえで、ドイツの新判例が示す上記の2要件は示唆に富むものである。 さらに、債権者のタイプによって要件を変える必要があるのではないかという議論も行われており、十分な考察を要する。
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