今年度は、アメリカの医療計画、とりわけ病床規制の機能を中心に検討した。アメリカの医療計画は、主に1970年代に実施されたものである。この医療計画にもとづく病床規制の実施は、わが国の医療政策にも影響を与えたと推察されるものである。アメリカの病床規制は、病床数のみならず、資本的経費などの規制もおこなうものであり、医療支出の抑制策として大いに期待されていた。当初、病床規制は州政府の医療政策として開始されていたが、その後、連邦政府でもこれを導入し、全米で実施された。しかし公的医療保険や各種民間医療保険の分立するアメリカでは、供給面からのコントロールという間接的な手法のみで、医療支出の抑制を行うことはできなかった。また1980年代後半から、各種定額払いの医療費支払い方式が導入されることにより、病床規制の重要性も低下していった。 医療計画における病床規制の必要性の根拠は、医療保健において支払い方式(出来高払い方式)が採用されていることに求めることができる。医療サービスには医師の診療の時点では、必要であるのか、あるいは有効であるのかが明確でない「灰色」の部分が存在するといわれる。出来高払い制は、こうした「灰色」部分の経済的リスクを医療保険や、最終的にはその加入者が負担する仕組みである。そして、この負担の発生を抑制する手段のひとつとして病床規制を位置付けることができる。ただし、アメリカの近年の動向より観察されるように、定額支払方式の導入によって「過剰な」医療サービスによる経済的リスクを医療機関が負担する場合には、病床規制のような供給面からのコントロールの必要性は低下する。
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