平成11年度は、前年度に引き続いて、比較法研究の対象としてアメリカ医療計画の検討を行い、わが国医療計画への示唆を求めた。以下2点が本研究から得られた知見である。第1は、病床規制の合憲性に関するものである。医療計画にもとづく病床規制は民間病院の活動を制約するものであるため、医療機関の「営業の自由」を侵害するか否かが問題となる。アメリカにおいても病床規制(CON規制)の合憲性が各州で争われたが、多くの州裁判所は病床規制の合憲性を認めている。これらの合憲判決では、医療機関の活動は医療保険制度を通じて公衆に大きな影響を与えるために、他の産業分野における需給調整規制とは同列に論じられないと述べている点が注目される。近年、わが国の医療計画についても規制緩和の観点からその正当性・必要性に疑念が示されているが、医療保険との関連性に考慮したアメリカの判例はこの点で参照に値するといえる。第2に、医療計画と医療保険制度(とりわけ支払い方式)との関連性である。出来高払い方式をとる医療保険制度の下では、有効性が不明確な医療サービスの経済的リスクを保険者、ひいては保険加入者が負担することになる。病床規制は、診療報酬の審査などとともにこれらの経済的リスクを軽減するための手段として多くの国で用いられてきた。したがって、どのような支払い方式をとるかによって、これらの規制の必要性も変化することになる。アメリカでは、80年代に入って人頭払い方式をとるマネージドケアシステムが主流を占めるようになり、これとともにCON規制の必要性も低下した。同様に、わが国医療計画における病床規制の必要性も相対的なものでしかなく、医療保険の支払い方式やその他の規制方式との関連でその正当性・必要性も変化する。
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