本研究は、東アジア国際政治の重要なアクターであった関係諸国のアジア政策および日本の国内政治経済を視野に入れつつ、安保改定が行われた1960年から日中国交回復までの日本の中国政策の解明を試みたものである。 今年度は、主として1960年代の前半、とくに池田内閣期の中国政策を中心に資料を収集し、研究した。まず、日中関係に携わった関係者の日記、回想録、評伝を購入し、利用した。たとえば、自民党内の親中派であった松村謙三らの対中関係打開の活動を中心に記した『日中交渉秘録』(田川誠一)は以前から刊行されていたが、最近公刊された『佐藤栄作日記』等も、1960年代の日中関係を理解する資料として、高い価値を持っている。日中関係について異なった志向をもつ関係者の記録を読み比べることによって、日中関係史における諸事件の事実関係を一層明らかにすることが出来た。こうした資料以外に、外交文書なども利用した。日本側の資料は、同時期の外交文書が外務省より公開され、接近できるようになった。イギリス側の資料としては、駐日大使館員が本省に打電した日本についての報告書を中心に複写収集し、研究した。 日本の中国政策を大きく左右したアメリカ側の資料の収集・分析は次年度に待たなければならないが、日本・イギリス側の文献・一次史料の利用によって、1960年代の日本の中国政策をかなりな程度まで解明することができた。すなわち、吉田内閣に始まった「政経分離」の方式によって「二つの中国」の固定化を図るといった中国政策の基本路線は、1960年代においても継承されていたのである。
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