平成10年度中は、主に、当研究の最も中心となる「大衆社会論争」そのものの再検討を行いました。そのうち、キーパーソンたる松下圭一氏の、1956〜58年の「論争」最盛期の諸テキストを精読し、あまりに有名でありながら十分に理解されていたとは言いがたい松下大衆社会論の理論的構造(「階級」概念と<大衆>概念、民主主義と社会主義の関係、松下氏のマルクス理解、今日のラディカル・デモクラシー論との関連性など)を、内在的に解読することを試みました。その成果を、1998年5月23日の、一橋大学における第5回政治思想学会・自由論題Bにおいて、「松下大衆社会論における<大衆>と「階級」」と題して報告しました。また、その報告原稿を加筆修正した同名の論文を、『八戸大学紀要』第18号(1999年3月25日発行)に掲載致しました。 当研究は、英国シェフィールド大学へ提出する博士論文のテーマでもあるため、上記の論文を昨年中に英訳し、シェフィールドに送ってあります。また、昨年秋から本年にかけては、松下大衆社会論に対するマルクス主義者側からの批判・反論の諸テキストの英訳に着手。それを通じて、松下氏との間の「論争」が、どのような誤解や誤読に基づいてなされたのかを解明する、一種のディスコース・アナリシスを続けております。さらにその英訳と共に、「日本語でなされた論争が、日本人同士で誤解された、その誤解のされ方」を英語で説明する作業を継続しており、日本国内の研究ではあまり自覚されない「日本社会科学の曖昧性」を、突き放して明示することとなっております。なお、以上の内容につき、1999年3月下旬の渡英時に、シェフィールド大学の指導教官と議論して参りました。
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